近代以前、死んだ(間引きした)新生児の遺体を置く場所として、小さな洞窟や古墳の石室が選ばれることはよくあった。それらは今でも日本各地に「捨て子塚」「子捨て塚」「赤子塚」などの名称で伝えられている。目につかない場所だからという実際的理由のほかに、もと来たところである子宮へ戻す「子返し」のイメージとして、岩穴や洞窟が選ばれたのだろう。
 

子宮へ返す想像も

 コインロッカーへの新生児の遺棄もまた、子宮へ「返す」想像が含まれていたのではないか。もし手元から捨てたいだけであれば、当時なら路地裏のゴミ箱に投げ入れたり、深夜の公衆便所へ放置したりすることもできたはずだ。だがそこでコインロッカーが選ばれたのは、子どもが子宮へ戻され、またいつか産みなおされるという想像がどこかにあったからなのでは。

 コインロッカーベイビーの怪談は、確かに子殺しの母を糾弾する話ではある。

 だが一方で、捨てられた子がそのまま成長していくといった想像を持たされる話でもある。

 いったん暗くて狭い子宮のような箱に「返された」子どもが、再びこの世に戻ってくる。コインロッカーベイビーの怪談には恐怖と告発だけでなく、そのような願いの一片も孕んでいるような気がするのだ。

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吉田悠軌

吉田悠軌

よしだ・ゆうき/作家。怪談・都市伝説研究家。早稲田大学卒業後、ライター・ 編集活動。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の研究をライフワークとする。実話怪談の語り手としてイベントやメディアに出演するほか、テレビ番組「クレイジージャーニー」では禁足地や信仰文化を案内している。「ムー」にて実話怪談、都市伝説の考察記事をレギュラー執筆する。

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