コインロッカーを開けると、なかに生まれたばかりの赤ちゃんの遺体ーー。かつてそんなニュースを何度も耳にした。こうしたその時々の社会現象を題材にした怪談はいくつもあるという。作家・吉田悠軌氏の著書「教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで」(ワン・パブリッシング)の中から、そんな近現代的な怪談のひとつ「コインロッカーベイビー」を抜粋の形で紹介する。
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望まぬ妊娠をした女子高校生がいた。
子の父である男に逃げられた彼女は、誰に相談することもなく、ひとりぼっちで赤子を出産する。しかしまだ若い彼女に、子を一人で育てられる自信などなかった。
生まれたばかりの新生児を抱いて、女性はひっそりと渋谷駅の裏手へ向かった。いつもそこだけ通行人の少ない、コインロッカー置き場を目指すためだ。
いちばん隅のロッカーを開けて、我が子をその中に入れる。そして扉を閉じるとそのまま鍵もかけず、足早に立ち去ってしまったのである。
それからずっと、彼女は渋谷の街を避け続けた。渋谷駅で下りることすらいっさいなかった。しかし社会人となり、仕事をするようになったらそうはいかない。
用事のため、女性は久しぶりに渋谷駅の改札をくぐることになった。目指す方向へと歩いているうち、ふと気づけば例のコインロッカーが見えてきた。六年前に自分がしたことを頭から追い出し、足早にその前を通り過ぎようとしたところで。
コインロッカー前に男の子
目の端に小さな人影が映った。コインロッカーの前で、ひとりの男の子が泣きじゃくっていたのだ。それを見た女性の胸が、ズキリとうずく。
見も知らぬ子なのに、なぜだろうか。小学校に上がる前あたりの、その男児がやけに気になって仕方ない。
「大丈夫? 迷子になっちゃったの?」
そっと近寄り、声をかける。男の子は泣くばかりでなにも答えない。
「おうちの人は近くにいる?」
やはり男の子はうつむきながら無言で涙を流すばかり。
女性の口から、思わずこんな一言が漏れた。
「お母さんはどこかな?」