36人のアスリートが世界の難民を代表し挑む。柔道選手が多いことが日本人として嬉しい(写真/本人提供)

 彼らの戦いぶりはマジで凄かった。難民とは一体どういう存在なのか、何も知っていなかったことを思い知らされた。普通に暮らしていた人が、紛争や迫害に見舞われ故郷を追われ居場所を失う。そんな心身を破壊されるような悲劇の中にあって希望を失わず前進することがどれほど切実なことか、東京行きに全てをかけ全力で戦う難民アスリートの姿を見て、私は初めて、あのひどい状況の中で兎にも角にも東京で五輪を開いたことを前向きに捉えることができた。そして、この困難な時代に困難と戦う選手の姿は、全然知らない国の人なのに全く他人事じゃなかった。私は心から応援したいと思える人を見つけたのだ。

 難民の数は12年連続で増えていて、2024年で1億2千万人と過去最多。世界はとてもまずいことになっていて、それを誰も食い止めることができないでいる。我が国でも頻発する災害で今も多くの人が故郷を追われ、困難な暮らしを余儀なくされている。そんな時代の五輪である。

AERA 2024年8月12日-19日合併号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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