AERA 2024年8月5日号より

「その分、時間軸の長い、未来性の高い寄付です」と齋藤さんは表現し、こう付け加える。

「未来の世の中に自分のお金が役立ってほしいと願い、託すのが遺贈寄付です。自分が死んだあと、将来の時間の流れの中で自分の存在が生きてくることが魅力と言えるでしょう」

国庫に最多768億円

 遺産を託される側にとっても、遺贈寄付に勇気づけられることは多い。ピースウィンズ・ジャパンで遺贈寄付相談を担当する榛田敦行さんは言う。

「自分の思いを引き継ぐ先として私たちを選んでいただけたら、それはとても名誉なことですし、金額の多寡にかかわらず励まされます。もちろん通常の寄付でも同じですが、成果を直接お見せできない分、より背筋を正される思いがします」

 まとまった金額が寄付されることもあり、活動が大きく進展するケースも。ピースウィンズ・ジャパンでも、過去には遺贈寄付によって保護犬のトレーニング施設を新設したり、災害医療の新たな事業を始められたりしたことがあったという。

 一方で、個人に対して遺贈寄付の「勧誘」はしないとも榛田さんは話す。

「実際に相談を受けていると、『何となく興味はあるけれど、実行にたどり着けない』方が大勢いることを感じます。最終的に私たちの団体が選ばれなかったとしても、その方がどんな思いを持っているのかできる限り丁寧にお聞きし、お手伝いをしたいと考えています」

 遺贈寄付は、社会貢献活動や公共活動を大きく推進する可能性を秘めたシステムでもある。

 日本で年間に相続される金額は推計で50兆円超。仮にその1%が寄付に回るだけで、年間の個人寄付総額(ふるさと納税を除く)がほぼ倍増するほどのインパクトを持つ。相続人がおらず国庫に納められる金額も増え、2022年度には、記録が残る13年度以降最多の768億円に上った。(編集部・川口穣)

AERA 2024年8月5日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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