「僕たちは、〈老人ホームに入らないで済むための老人ホーム〉を作ります」。本書はこんな宣言を掲げた風変わりな福岡市内の老人介護施設「宅老所よりあい」の創立記だ。
著者は元雑誌編集者。仕事がなく、時間を持てあましていた著者が、知人の紹介で、「よりあい」のスタッフと知り合い、彼らの活動に巻き込まれていく。そして彼らを紹介する雑誌「ヨレヨレ」を一人で創刊した。
「よりあい」は、ゴミに埋もれていた認知症のお年寄りを救おうとするところから始まった。古民家風の施設のデッキにカフェを併設して「管理」でなく「居心地」を尊重し、近所の人がふらっと入りたくなるスペースにしている。配膳は三食手作りで、食器もプラスチック類は避け、キッチンの什器も充実している。
しかし、心意気はあれどもお金はない。必死でお金を集めて特別養護老人ホームの建設を知恵と汗と笑いで乗り切っていく後半は、「ホントに実話? 小説じゃないの」というくらい感動的だ。
※週刊朝日 2016年2月26日号