1年生の児童が記入した「夏休みの学習」(写真提供:如意小学校)

いい子と悪い子に選別しないで

 宿題廃止の方針に対し、現場の教員たちは「1学期に教えたことを忘れてしまうのでは?」と難色を示したという。だが長井校長は、「先生だって中学高校で習った数学や物理の難しい話は覚えていないでしょう?」「子どもは必要なことであれば覚えているもの」などと説得した。結果、夏休み明けの2学期からの授業の理解度に関して、教員から苦情が届くことはなかった。

 そこで長井校長は、さらに大胆な改革に踏み切る。「学期中の宿題」「単元ごとのテスト」「通知表」をすべて廃止すると決めたのだ。

 これには、さすがに保護者からも「勉強は親が見るようにということですか?」「塾に行かせなければいけないんですか?」といった不安の声が寄せられた。区の教育長に呼び出され、説明を求められたこともあった。長井校長はその都度、教育者としての自身の思いを伝えたという。

「子どもたちは、常に周りとの比較や競争にさらされ、自分のいたらなさを示される中で、自己肯定感が下がっている。成績で序列をつけて、いい子と悪い子に選別するのではなく、一人ひとりの良さをみる評価にしたいんです。子どもの自由な発想に対し、大人が『そんなくだらないことはやめて勉強しなさい』と言うことは、もしかしたら大発見の芽を摘む行為かもしれない。それは人類にとっての損失です」

 こうして西新宿小は昨年、宿題、テスト、通知表という「ある意味、子どもたちを掌握するためのツール」(長井校長)を廃止した。大人たちの不安をよそに、何かを強制されなくても自主的に勉強する子はちゃんといた。授業についていけない子には担任が補修をするなど適宜サポートした結果、昨年度に実施した学力テストの平均点は、前の年度と比べて数点下がった程度だったという。

 通知表をなくした代わりに、保護者との個人面談を年1回から2回に増やし、日ごろの授業や生活の様子を丁寧に伝えるようにした。そのかいあってか、改革当初に保護者から寄せられたような問い合わせや苦情はその後一切届かず、教育委員会もいったんは状況を静観しているそうだ。

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七夕の短冊に見えた「子どもの変化」