ジンズホールディングス代表取締役CEO、田中仁。低価格だが機能的でかっこいい。日本のメガネ業界に大きなインパクトを与えたのが、JINSのメガネだった。創業者の田中仁は、信用金庫を経て、自分が納得した仕事をしたいとベンチャーの道を選んだ。今、田中が情熱を注ぐのは、故郷でもある群馬県前橋市のまちづくり。安寧の道を選ぶのではなく、常に挑戦を忘れない。
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東京のビジネス中心地、大手町に隣接しながら、江戸庶民の匂いが残る神田錦町。今年1月、その地にジンズホールディングス(以下JINS)の新しい東京オフィスが完成した。
9階建ての中古ビルを丸ごとリノベートした社屋は、むき出しのコンクリート躯体の中に、現代美術の展示ギャラリーや、それ自体がアートのような4層の吹き抜けが設置されている。1階は誰でも使えるコーヒースタンド。従業員用の9階には、サウナや外気浴スペースが備わっている。
移転前は、眼下に皇居を望む超高層タワー最上階に入居していた。成功の象徴のような場所から、あえて町場へ。代わりにここでは「壊しながら、つくる」をコンセプトに、クリエイティブなあり方を徹底的に追求した。
それなのに、このビルは将来的に取り壊しが予定されている。
「好きにいじっていいと言われたので、好きにいじっちゃいました」
いたずらっ子のように笑いながら、CEOの田中仁(たなかひとし・61)は、鋭い言葉をさらっと続けた。
「僕たちはチャレンジャーとして、小売業界で革新を行ってきました。でも、一つのビジネスモデルがうまくいくと、すぐに模倣、追随されて、自分たちの持ち味が薄れていく。会社が大きくなると、社内に大企業病もはびこっていく。そうやって、だんだんと普通の会社になっていくことに、すごく危機感を持っているのです」
JINSは2000年代初めに、SPA(製造小売り)業態でメガネ業界にイノベーションを起こし、大きな成長を遂げてきた。国内市場の上場企業としては、売上高732億円超の第1位。海外を合わせた総店舗数は741(うち国内は492)店と強さを見せる。しかし、コロナ禍での業績停滞に加え、積極出店を行ってきた中国では景気減衰のリスクに直面するなど、ビジネスの環境は安寧なものではない。
「だから常に初心に戻って、ベンチャー魂を持ち続けなければならない。コロナを超えて今、JINSは『第二の創業』にあると考えています。東京オフィスは、そのシンボルの一つなのです」