このような企業の取り組みは、労働者側にとっては良い方向への第一歩であるとは言える。しかし「労働力不足の決定的な解決策になるとまでは言えないと思います」と今野さんは言う。

「労働市場の逼迫の表れ方は、地域や職種、階層によっても異なっています。高学歴の新卒の上層では本当によい待遇が増えていると思いますが、中小企業などではあまり進んでいません。また非正規雇用では賃上げしていない職場の方が圧倒的に多いのが実態です」

 では、どうすべきか。今野さんは「労働市場が逼迫したときは労働条件を向上させる好機です」としつつ、こう続ける。

「ただし、その好機をうまく活用しなければ効果は限定的にとどまります。各国の高度成長期に労働市場が逼迫した際には、労働組合がストライキ戦術などで人手不足状況を効果的に使い、年功賃金など安定した労使関係制度を作り出しました。今、まったく保護されていない非正規労働者たちは、人手不足を効果的に用いた労使交渉で、一時的ではない待遇改善をめざしてほしいと思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年7月29日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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