AERA 2024年7月29日号より

現場の実態とズレ

 今年5月には厚生労働省への要請も行い、「立ち仕事の実態把握を進める」との回答を引き出した。そんな茂木さんの目に、「座ったまま」が一部で導入される流れはどう映るのか。茂木さんは「すごくいい動き」と評価する一方で、こう話す。

「組合や労働者から声が上がりその結果、イスが設置されたという例はまだ聞きません。企業が『上からの判断』で進めている動きで、現場の実態とのズレがないかは気になります」

 茂木さんが働くスーパーでイスが試験的に導入されたときは、深めのパイプイスだったため座ってしまうと客からレジにスタッフがいるかわからない状況になってしまったり、イスを置いたせいでスペースがなくなり動きづらくなったりという問題が生じたという。会社が頭の中だけで考えるから起きる問題で、そこは組合での交渉や従業員からの直接の声がないと伝わらない、と茂木さんは言う。

「私たちの活動も、『意味もないのに、何で立ってなきゃいけないの? 座っててもいいじゃん』という働く者としてのシンプルな気持ちから始まっている。人手不足を背景に企業が動くのと、労働者から声が上がるのとでは、意味合いがかなり違うのではないかと思います」

 動いているのは、働く側ではなく会社側。これをどう見るか。労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」代表の今野晴貴さんは、現状をこう話す。

「人手不足の中で労働者に対する配慮が広がっていると感じます。労働市場が逼迫すると労働者の待遇が上がることは、いつの時代にも繰り返されてきた。現在もそうした労働市場の状況がある程度反映されていると見ることができると思います」

待遇改善の好機

 要は純粋に「辞められては困る」という動機があるのだろうと今野さんは見る。

「レジの店員は多くが非正規雇用だと思いますが、最低賃金が上がっているとはいえ、待遇は非常に低いまま。少しでも良い条件のところに移動しないように引き留めたいのでしょう。また販売業の非正規雇用率は非常に高く、業務の中心部分を担われており、『辞められると店舗が運営できない』という死活問題に陥ってる事業者が多いことも背景にあると思います」

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