私は、日本でも、規制緩和の大合唱のなかで同じことが起ころうとしているのではないか、と考えて、アメリカの航空業界の規制緩和が何をもたらしたか、そして日本での平岩研による福祉・医療の分野までおよぶ規制緩和の方針が何をもたらすかを内橋克人さんを途中から筆者に加えて(グループ2001という匿名に対する批判がいわゆる新自由主義の経済学者から指摘されていた)、雑誌で3回にわたって連載、単行本にしたのが1995年。

オバマ政権は金持ち優遇だった

 今回の会田さんの本を読んで「そうだったのか!」と膝をうったのは、実はクリントン・ヒラリー・オバマの民主党のメインストリームは、1960年代までの「大きな政府」から別れをつげ、むしろ金持ち優遇の政策をシリコンバレーともむすんで推し進めた結果、さらに格差が拡大していた、という指摘だった。

〈二〇二三年第3四半期のアメリカの世帯資産をみると、上位一〇%が全世帯資産の総計の六六・六%を占めている。(中略)これに対し下位五〇%の世帯資産は全体の二・六%を占めるだけだ〉

 実は、アメリカ社会に格差が生まれているということは、1992年にアメリカで刊行された「AMERICA:What went wrong?」の中ですでに指摘されていた。

 フィラデルフィア・インクワイアラー紙のスティールとバーレットは、内国歳入庁の三〇年にわたる所得データからアメリカの所得分布がどう変化したかを、計算している。それによると、1959年には、アメリカのトップの四パーセントの総収入は、アメリカの下から三五パーセントの総収入と同じだった。ところが、1991年には、これが五一パーセントの収入と同じになったと指摘している。

 私がコロンビア大のジャーナリズムスクールに留学するために、渡米して最初に買ったのが、スティールとバーレットの「AMERICA:What went wrong?」だった。

 同書は、かつて高賃金で豊かな中間層を支えた製造業が、海外に出ていってしまい、サービス業におきかわることで、実質賃金が大幅に低下していると警告し、大きな評判となり、93年のクリントン政権の誕生に一役かったと言われている。

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