落語家・春風亭一之輔さんの連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「オリンピック」。
ただいま毎年恒例の全国ツアー真っ最中だ。12年目、とうとう干支が一回りしてしまう。今年は31公演、7月15日現在まだ12公演が終わったところ。まだ半分もいってないじゃないか。まったく気が遠くなる。
公演の開口一番に自分の弟子ばかり連れていくと気が滅入ってくるので、その土地の出身の後輩がいればお願いするようにしている。
先日の長野公演では長野市出身の前座さん・林家十八(とっぱち)君におでまし願った。十八君は元 小学校の教員という変わ り種だ。確かめてはないが教員免許を持っている噺家はけっこういるだろうけど、実際に先生の経験がある人はそんなにいないはず。(先代の柳家つばめ師匠が教員だったというのは聞いたことがある。でも昭和20年代の話!)
会場に向かうタクシーの中で……。
一之輔「十八は何年間先生やってたの?」
十八「2年です」
一之輔「やっぱ、あれか? 生徒のお母さんと不倫したりして、それがバレて村にいられなくなって東京に逃げてきたのか?」
十八「違います」
一之輔「じゃ、女生徒の着替えを盗撮したりして、それがバレて村にいられなくなって東京に逃げてきたのか?」
十八「違います」
一之輔「じゃ、生徒の給食費に手をつけてパチンコにつぎ込んだりして、それがバレて村にいられなくなって東京に逃げてきたのか?」
十八「違います。そもそも村じゃありませんし、盗撮バレたら逮捕ですし、今どきの給食費は振り込みか引き落としですから」
一之輔「じゃ、なんで逃げてきたの?」
十八「逃げてないです。前向きに出てきました」
聞くところによると学習院大学の落語研究会出身らしい。
一之輔「佳子さまとか会ったことある?」
十八「学部は同じだったんですけど入れ替わりでICUに行かれたのでお会いしたことはないですね」
一之輔「ふーん……」
会話が終わった。