朝の情報番組「ZIP!」による密着取材の一コマ。自分が何を求められているかを瞬時に把握し、自然に振る舞う。そうした勘どころの鋭さは、コート越しの対戦相手の心理を読み取るテニスにも通じる

激闘の末に惜敗したが 歴史に残る国枝との名勝負

 諸石は小田の本気度を最初から見抜いていた。

「何か新しいことを教えると、1週間で、すぐに覚えてきました。家に帰って自主練をしていたんでしょう。ラケットさばきも器用でした」

 小田の記憶には、申し訳なさが残る。

「僕はとにかく打ち合うのが好きで、手で投げてもらった球をたくさん打つことでフォームを固める基本練習が嫌いだったんです。でも、諸石さんは基礎の大切さを、厳しく説いてくれた」

 諸石は握力が弱いことなどから、車いすで俊敏には動けない。それでも、小田は小学校6年くらいまでは、試合をすると諸石にあしらわれていたという。

「常にやられていましたね。左右のコースに振られ、僕の動きの逆を突いてくる。頭脳プレーも小技もすごかったです」

 今の小田がドロップショットなどの小技も器用にこなすのは、そうした技術を諸石に授けられたのが大きい。

 今のコーチである田浩也(39)との練習では、基本練習を愚直にこなす小田がいる。

「一見退屈かもしれないけれど、地味な練習の積み重ねが、さらなる成長へのカギですから」

 それが全日本ジュニア選手権で優勝経験がある熊田の信念であり、小田も理解している。

 小田の成長は目覚ましかった。14歳でジュニアの世界ランキング1位になり、そのころにはプロになると心に誓っていた。夢を追うための代償もいとわない。21年の元日からは、それまで好きで食べていたお菓子や、清涼飲料水を一切取ることをやめている。

「それぐらいしないと勝てない、と自分を追い込みたかった」

 ストイックさが、貪欲な向上心を高める。

(文中敬称略)(文・稲垣康介)

このカット、フォトグラファーのリクエストではない。自ら、何か面白いカットはないかと考えたときに小田が提案した。車いすに乗り、躍動感あふれる一枚

※記事の続きはAERA2024年7月22日号でご覧いただけます

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