カメラのレンズを見据える目に力強さが宿る。自身の掲げた目標を追い求める覚悟と重なる
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 プロ車いすテニスプレーヤー、小田凱人。今年6月、全仏オープンテニスの車いすの部・男子シングルスで小田凱人は大会2連覇を飾った。昨年、17歳の史上最年少で4大大会優勝を果たし、世界ランキングも1位に。ただ勝つだけでなく、エンタメ性も意識したプレーを追求する。8月には初めてのパラリンピックとなるパリ大会が幕を開ける。凱旋門の「凱」を名前にもつ小田が、王者としての凱旋をかなえる晴れ舞台だ。

【写真】6月の全仏オープンで2連覇を飾った直後の喜び

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一瞬、何をしているのか、理解が追いつかなかった。

 6月8日、テニスの全仏オープン、車いすの部、男子シングルス決勝の第1セット第4ゲームで、小田凱人(おだときと・18)が取った行動だ。

 高い放物線を描くボールが返ってきた。サービスラインのかなり手前に落ちる軌道だから、そのまま前に詰めてノーバウンドで容易にスマッシュを打ち込める球に見えた。なのに、小田は、あえてバウンドさせ、その間にクルッと車いすを横に1回転させた後、強烈なショットを打ち込んでポイントを取った。14番コートに詰めかけた観客は、娯楽性が加味されたショットに沸いた。

「僕にとって試合はマッチではなくてショー」

 この若者、いや少年がそう自負するのは知っていた。しかし、4大大会の決勝という緊迫した局面で繰り出したことに、驚いた。

 小田はこのゲームを取り、ゲームカウントで3-1とリードした。要したのは、わずか11分。圧勝ペースだったからこその余裕だったのかもしれないけれど、仮にミスしていたら……、さらにはそのポイントを分岐点に相手の反撃にあって負けていたら、批判を浴びかねないプレーだった。

 杞憂(きゆう)だった。世界ランキング3位のグスタボ・フェルナンデス(30)=アルゼンチン=に7-5、6-3のストレート勝ち。この種目で史上最年少の4大大会優勝を果たした昨年に続き、大会2連覇を飾った。昨年のウィンブルドン選手権、今年1月の全豪オープンを含め、4大大会シングルスの優勝は、早くも4度目になる。

 試合後のコートでの表彰式で、敗者フェルナンデスは小田を、こう評した。

「コートの中では、ティーンエイジャーにとても見えない。大人びている。コートの外では感じるけどね。君は勝者に値するよ」

 18歳の王者に賛辞を贈った。

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