6月の全仏オープンで2連覇を飾った直後の喜び。8月末に開幕するパリ・パラリンピックの舞台でもあるローラン・ギャロスの赤土に残る車輪の跡が、決勝の激闘を物語る

「大舞台」に燃えるタイプ 白けた試合なら次がない

 メインインタビュールームに現れた小田に、「1回転スマッシュ」について尋ねた。クスッと笑った後、思いを口にした。

「僕的には5-5のようなスコアでも、あれぐらいできる選手になりたい。ただポイントを取るだけでなく、大道芸のようなテニスをしたい」

 ただ勝つだけでは満足しない胸の内が聞けた。

 小田は「大舞台」が好きだ。大観衆の注目を浴びることで燃える、と公言する。昨年の全仏オープン決勝は、約1万5千人を収容できるセンターコート、「フィリップ・シャトリエ」で戦う栄誉に浴した。しかし、今年はシングルスの初戦から準決勝まではセンターコート脇にある観客席の少ない7番コートがあてがわれた。ダブルスでは、三木拓也(35)と組んだ7日の準決勝でセンターコートの舞台が用意された。といっても、小田ペアへの注目度というより、対戦相手が地元フランス勢だったことが大きかった。

 それでも、小田にしてみたら、「シングルス決勝も昨年と同じようにセンターコートでやる伏線だろうな」。そんな風に捉えた。

 なので、翌日のシングルス決勝を見据え、ラケットの入ったバッグと、試合用の車いすをセンターコートに置いたまま、会場を後にしていた。

 ところが、決勝はセンターコートから歩いて2~3分離れた14番コートがあてがわれた。

 決勝の朝は、センターコートのロッカールームに、前日置いていったバッグと車いすを取りに帰るところから始まった。

 失望、落胆はあったのか。小田は決勝後の記者会見で問われ、こう答えた。

「逆に燃えたかな。お客さんはもっと入ってほしかったけど、テニスのクオリティーとして、次は小田を(センターコートに)入れなきゃダメだな、という試合をすれば、絶対次は入れてくれると思ったし、だから、ここで白けた試合をしたら次がないと思ったので……」

 勝つだけでは心が満たされない境地に、すでにいる。

 私が小田を初めて取材したのは2022年夏のウィンブルドン選手権だった。その春に、15歳で「プロ宣言」し、5月末開幕の全仏オープンで4大大会デビューを果たしていた逸材だという認識はあった。受け答えが高校1年生とは思えないほど、大人びていた。

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