中華統一を成し遂げた、秦の始皇帝。統一戦争を進める中で立ちはだかったのが、趙国の大将軍・李牧だ。映画「キングダム大将軍の帰還」では小栗旬さんが演じており、人気キャラのうちの一人となっている。
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映画『キングダム』の中国史監修を務めた学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、李牧の史実における強みとして、「機動力と統率力」だったと指摘する。将軍たちの史実を解説した新刊『始皇帝の戦争と将軍たち ――秦の中華統一を支えた近臣集団』(朝日新書)から、一部抜粋して解説する。
【李牧の生涯と、『キングダム』にかかわる史実に触れています。ネタバレにご注意ください】
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李牧(りぼく) │傑出した才を持つ名将
趙の将軍・李牧ほど、秦王嬴政(えいせい)の軍に連戦連勝し果敢に撤退させた将軍はいない。
李牧の将軍としての才能は顕著であり、最初は北辺の良将として知られた。趙は北辺に長城を持ち、李牧は代と雁門(がんもん)の地で名を馳せていた。匈奴(きょうど)と戦わずして趙の辺境を守り、強国秦を抑えることに力を集中させた。辺境に設けた市場で得た租税を兵士を養成する費用に充てるなど、本国には事後報告という形で独自に臨戦態勢をとった。戦車一三〇〇、騎兵一万三〇〇〇、「百金の士」五万、弓兵一〇万を率いる名将軍であった。
この編制は、先にふれた秦の軍隊の編制と比べると、違いがある。秦では歩兵は弓兵の倍、李牧軍は弓兵が歩兵の倍となっている。騎兵の匈奴軍への対応には、歩兵よりも弓兵が有利である。李牧の騎兵は戦車の一〇倍、歩兵は騎兵の四倍である。秦軍では騎兵が戦車の一〇倍で同じだが、歩兵は騎兵の一〇〇倍もある。李牧軍はあきらかに匈奴の騎兵部隊に対抗する編制であった。李牧軍は、匈奴の十余万の騎兵を迎え入れて、歩兵と弓兵で挟み撃ちにした。
前二四三年、北の燕を攻撃し、武遂、方城を抑えた。北辺を安定させたことで、李牧は以降二度にわたって秦に勝利する戦闘に専念できた。李牧軍の秦軍に対する優位性は、機動力と李牧の統率力にあったと思う。