【バイタル】製造部生産課 島田より子(しまだ・よりこ)/1956年生まれ、長野県出身。前職(カメラ等の部品製造業)の会社が解散となり、知人からバイタルを紹介され93年に入社。自動水栓デルマンシリーズの組み立て、検査、梱包、出荷作業などを担う(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年7月15日号にはバイタル 製造部生産課 島田より子さんが登場した。

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 コロナ禍で公共施設のトイレや手洗い場などに一気に普及した自動水栓。蛇口に触れなくても水が出るため、衛生面に配慮が必要な場所では特に需要が高い。

 その製造に30年以上前から携わっている。当時はまだ自動水栓のニーズは低く、設置されている場所も限られていた。「仕事がなくて会社自体がどん底だった時もありました。でも、会社とこの仕事が好きだったんですね。いつかきっと忙しくなる日が来ると信じて作り続けました」

 初号機からスタートし、今では200もの機種を製造する。機種ごとに異なる部品をそろえ、基盤に電子部品を取り付けるはんだ付けや電動ドライバーでのビス留めなどすべてを手作業で組み立てていく。

 一つの機種あたり部品は多くて200点以上にも及ぶ。ビスのミリ単位の違いも丁寧に見分け、確実に作り上げる。基盤に水が入らないようウレタンを流し込む作業は特に高度で、手早さと確実さという二つの技が求められる。

「慣れない頃は配線を間違えたり、ウレタンを流し込むタイミングを逃したりして製品を無駄にしてしまったこともありました。でもうちの社には失敗を次に生かそうという前向きな空気がある。みんなで支え合ってここまで来られたのだと思います」

 実績を重ね、累計出荷台数は50万台を突破。コンビニ、新幹線、航空機などに導入され、「日本人なら一度は使っている」自動水栓として紹介されるまでになった。

 さらにコロナ禍で需要は跳ね上がり、生産が追いつかないほど多忙な時期も経験した。どんなに忙しくても確実な製品を作り上げ、納期に間に合わせた。「忙しいぐらいのほうが仕事は楽しい。仕事があるのが当たり前ではない時期もありましたから」

 コンビニやレストランに入ると必ずトイレに行き、自動水栓の調子を確認してしまうという。「何年たっても大切に使ってもらっているのを見るとうれしくなる。まだまだがんばって作らないと、という気持ちになります」

 勤続30年を迎えた日、社長から花束を贈られるサプライズに涙した。

「まずは70歳まで働き、後輩たちの力になりたい。その時まだ必要とされていたら……もちろん働きます」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2024年7月15日号