『“SURFIN’ SAFARI』THE BEACH BOYS
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『“SURFIN’ SAFARI』THE BEACH BOYS
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『“SURFIN’ U.S.A.”』THE BEACH BOYS
『“SURFIN’ U.S.A.”』THE BEACH BOYS

 当連載コラムの第1回目でも書いたとおり、一般的にロサンゼルスと呼ばれる地域は呆れてしまうほど広い。たとえば、なにかと比較されることの多いニューヨーク・シティのマンハッタン地区は、セントラル・パークの南側に限れば、歩いて回れないこともないだろう。しかしLAでは、そんなことまったく不可能。

 グーグル・マップなどを見てもらえばわかると思うが、シティ・オブ・ロサンゼルスはとても複雑な形をしている。南米大陸を左右逆転したような形。そんなふうに言えるかもしれない。

 たとえば、あなたが宿泊込みのパック旅行でLAを訪れるとしよう。約10時間のフライトをへて到着する国際空港は、その西側にある。無事に通関を終え荷物をピックアップしたあと、旅行会社が仕立てたバスに乗り込むと、インターステイト・ハイウェイ405号線で北西の方向に向かうこととなる。LAを代表するコンサート会場の一つ、フォーラムがあるイングルウッド。しばらく行くと、カルヴァー・シティ。ロサンゼル郡を構成するいくつかの市を右手に見ながら進んで行くと、10号線との巨大な交差点を左折。サンタモニカのサード・ストリート・プロムナードでしばし潮風を感じながらショッピングとなるはずだが、かつてはルート66の終点でもあったサンタモニカもLAとは別の独立した市だ。

 モールやピア(桟橋)などで食事を済ますと、バスは10号線に戻って東に向かい、約35キロ離れたダウンタウンを目指すことになる。その間にも、ビヴァリーヒルズやウェスト・ハリウッドなどの市、あるいはハリウッドなどのネイバーフッド=地域があり、途中、左手の丘陵地帯にあの有名な組み文字のサインが輝いているのを目にするはずだ。そして、順調なら1時間、渋滞がひどければ2時間近くかけてたどり着いたダウンタウンのホテルで長かったツアー初日が終了。そんなところではないだろうか。

 ロサンゼルス市は、あのユニヴァーサル・スタジオを飲み込むような形でインターステイト・ハイウェイ10号線の北側にも大きく広がっている。さらには同市南端と接するロングビーチ、近郊住宅地といったイメージのパサデナ、太平洋に面したマリブなどロサンゼルス郡の諸市や地域を総称して私たちはロサンゼルスという言葉を使っているわけだ。本コラムのテーマ、ポップスやロックに関して言えば、隣のオレンジ郡、東部の砂漠地帯なども含めて「LA産」という言葉が使われてきたのだと思う。

 さて、ロサンゼルス国際空港に話を戻すと、パック旅行ではその南側に行くことはあまりないと思うのだが、そこには、エルセグンド、マンハッタン・ビーチ、ハーモザ・ビーチ、レドンド・ビーチなどの市が太平洋に面して連なっている。どこも、それぞれに魅力のある、美しいビーチ・シティである。

 厳密に言うと海に面してはいないのだが、このエリアを構成する市の一つ、ホウソーンで結成され、1961年暮れ発表の《サーフィン》を皮切りに数多くのヒットを放ち、いわゆるカリフォルニア・サウンドのブームを巻き起こしたのが、ビーチ・ボーイズだ。

 その中心人物はホウソーン生まれで、フォー・シーズンズなどの白人ヴォーカル・グループに強く影響を受けたというブライアン・ウィルソン。弟のデニスとカール、従兄弟のマイク・ラヴ、高校で出会ったアル・ジャーディンとグループを組んだ彼は、フォー・シーズンズ直系のコーラス・ワークと、チャック・ベリーのギター・リフを中心にしたロックンロールの諸要素を融合させ、サーフィンやホットロッド、イノセントな恋心などをテーマにしたポップな歌の数々で新しい時代の扉を開いた。ビーチ・ボーイズの音楽性、ブライアンの先進性については連載5回目でまた詳しく書くが、ともかくこのようにして彼らは、音楽好きの若者たちの興味や関心を、強烈に、ロサンゼルスへと惹きつけることともなったのだった。 [次回1/20(水)更新予定]

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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