特ダネとして「タイガース再結成へ」
渋谷公会堂のエスカレーターを下りながら、新装される前の「渋公」を懐かしみました。忘れがたい思い出が二つあります。
一つ目は、2013年1月6日の公演です。事務所から「ジュリーがこの日はぜひ観てほしいと言っている。撮影もOKです」と聞かされていて、心中穏やかではいられませんでした。アンコール前のMCで、プロ野球セ・リーグの情勢を長々と話しましたね。そして、こんな発表があったのです。
「タイガースといえば、ザ・タイガース。ついに、発表のときが来ました。ザ・タイガースがオリジナル・メンバーでやることに、全員の気持ちが一つになりました」
予感はありました。それでも、ジュリーの誇らしげな表情を見て、湧き上がる大歓声に包まれると、涙が出そうになりました。客席でパソコンを開き、朝刊向けの特ダネとして「タイガース再結成へ」の原稿を打ち込みました。指がふるえました。その場で鳴り響いていた「Rock黄Wind」(阪神タイガースの応援歌「六甲おろし」のカバー)は、またいつかステージで見たい曲の一つです。
もう一つの思い出は、翌秋のコンサートです。終演後、楽屋を訪ねたとき、私はかつてお見せしたリストの話題を蒸し返し、「『夕映えの海』をぜひ、ライヴでやってほしい」と直談判しました。沢田さんは笑顔でこう言いました。
「もう忘れたわ。どんなんやったっけ?」
へ? ホントにお忘れになっている? 思わず、ご本人の面前で歌って聴かせるという暴挙に出るところでした。私の背後に次のお客さんが控えているのに気づき、ぎりぎりのところで思いとどまったのでした。
でも、わがままなファンはあきらめていません。「夕映えの海」を、今の沢田さんの歌声で聴いてみたい。今から、来年のツアーを楽しみにしています。
敬具
(文中一部敬称略)
(元週刊朝日編集長 佐藤修史)