――「君をのせて」は1971年のソロ・デビュー曲。「あなたへの愛」は73年のシングル。近年の公演では、太くのびやかな歌声で、レコードとは一味違うドラマチックな印象を受けます。いつ聴いても素敵な曲ですよね。そう考えると、何度でもステージで聴きたい曲っていうのもありますよね。河島英五さんが書き下ろした「いくつかの場面」とか。

「あの曲は、いくつになっても歌えますからね。河島さんが何をイメージして書いた詞なのか聞いたことはないけれど、僕は『野次と罵声の中で』というくだりで、PYGの日比谷野外音楽堂を思い出す。空き缶を投げられたり、引っ込めと言われたりしたからね。『怒りに顔をひきつらせ去っていったあいつ』では、かつみ(加橋かつみ=元ザ・タイガース)のことを思い出すわけです。河島さんにはありがとうという気持ちです」

コンサートで阿久さんの歌ばかりやるとつかれる(笑)

――阿久悠さんの作品としては珍しく、「詞先」でなく「メロ先」で、作曲者の大野克夫さんの才能が最大限発揮されている「あなたに今夜はワインをふりかけ」(1977年)も、毎回、大きく盛り上がります。

「でもね、僕はどっちかというと、安井かずみさんの詞が好き。『ちゃらちゃらしていても、大丈夫よね』って感じで、物事をはっきり言い切らない。ところが阿久さんの詞は強いでしょ。『男は誰でも不幸なサムライ』とか、『女は誰でもスーパースター』とか。歌う立場からすれば、『え、そこまで言い切ります? 僕、困ります』って(笑)。観客や視聴者には『この歌、虚像ですよ、演じているだけですからね』と言いたくなる。それで勢い、海軍の短剣を手にしたり、ハーケンクロイツの腕章をつけたりして、派手に演じるしかなかった。『やっちゃえ、やっちゃえ』と。コンサートで阿久さんの歌ばっかりやるとね、歌う方も聴く方もつかれますよ。どの曲も濃いでしょ(笑)」

(元週刊朝日編集長 佐藤修史)

【後編】<【沢田研二・祝76歳】 終演後の楽屋でジュリーが笑顔で言った一言とは 渋谷公会堂の忘れがたい思い出>に続く。

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