遠洋航海での訓練の様子(画像出典:海上自衛隊Webサイト)

来る者拒まず去る者追わず

 同僚の中には、恋人から「船を下りるか私と別れるか選んで」と迫られて真剣に転職を考えていた隊員もいたが、胡さんは大きなトラブルもなく、半年の遠距離恋愛を乗り切った。とはいえ、航海中に「日本に帰ったら彼女がいなくなっていたらどうしよう」などと不安におそわれることはなかったのだろうか。

「自分の仕事を理解してくれる人じゃないと付き合えないと割り切っていました。数カ月間会えないこともざらにあるし、台風や地震など非常時には出動する。『そんな人は絶対無理!』って言われたら、どストライクの子でもあきらめます。来る者拒まず去る者追わず、ですね」

 一方で、遠距離恋愛の苦い思い出を語るのが、胡さんと同じく広報室所属の吉田健一・3等海佐(36)だ。

 吉田さんは24歳の時、入隊直後の実習で半年間の遠洋航海に参加し、セーシェル共和国やタンザニアなどのアフリカや中東諸国を回った。そして日本に帰ってくると、彼女を広島に残したまま、沖縄に赴任。しばらくして、彼女から「(あなたが)何を考えているのか分からない」と別れを告げられたという。

「日本にいたときのほうが、コミュニケーション不足になっていたと思います。初任地の沖縄ではまだ右も左も分からず、彼女から連絡が来ても、忙しさにかまけてつい素っ気なく対応していました。遠洋航海中、寄港するたびに自分の思いの丈を絵はがきに詰め込んで、ちゃんと届くか不安になりながら投函(とうかん)していた時のほうが、よっぽど真剣に相手と向き合っていたと思います」

 洋の東西を問わず、恋愛は“障壁”があったほうが盛り上がるとされてきたが、そんな話も今は昔。不自由さを甘受してきた海上自衛官もまた、新しい恋愛のかたちを見つけていくのだろう。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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