もちろん、何でも真っ向から切り込んでいくことが必ずしも良いわけではありません。行間や言外ににじませるというのも、表現としての美徳のひとつだと思いますし、個人的にも「枷」を売りにしている作品は苦手です。

 それにしても、あらゆる事案・表現が「不適切」となり得る今の時代は異常事態と言えるでしょう。このまま行けば、近い将来「BL」はおろか、「不倫」も「年の差婚」も「嫁姑」も、すべて不適切要素になるかもしれません。
 

 私は橋田寿賀子さんの作品が好きです。とは言え「おしん」と「渡る世間は鬼ばかり」ぐらいしか観ていませんが、彼女の作品には常に「信念と偏見」「ニュースタンダードと時代錯誤」「男女格差」「経済格差」といった対立構造が、日々の暮らしの中に描かれています。

 橋田作品でいうところの「鬼」とは、人間や社会が持つ偏見や先入観や無知のことです。そんな「鬼」たちと、人はどのように戦い、折り合いをつけ、共存していくのかが、橋田作品の永遠のテーマであり、どちらかが勝つ負けるではありません。

 偶然にも「渡る世間は鬼ばかり」「不適切にもほどがある!」、どちらも七五調のタイトルです。

 この世の営みに棲む「鬼」を、ことごとく「不適切」だと断罪したところで、果たして健全な世の中が生まれるのか。そもそも「健全」を謳うこと自体が、「不健全」の隠蔽行為ではないのか。

 結局は、対立や分断は差別には見て見ぬふりをして、自分が「鬼」にさえならなければそれでいいというマインドの連鎖反応でしかないのです。それは思いやりでも配慮でもなく、ただの保身です。

「自己防衛にもほどがある!」「保身に走る雑魚ばかり」なんてドラマを作れば、共感マックスのヒット作になるかもしれません。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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