都内のIT企業に勤める女性(41)は、上司に打ち明けた不妊治療の話が、周囲に知れ渡っていて困った経験がある。

 休みを取る必要性から、当初は直属の上司だけに伝えていた。ところが、さらに上の上司たちにも、情報が伝わっており、その上、中途入社したばかりの30代女性社員にも事情が伝わっているとわかり、驚いた。

 中途入社の社員は、入社早々女性に、「妊活中と伺いました。病院とか行ってるんですか?」と詮索し、「私は病院へ行く前に授かれた。不妊治療ってお金かかるって聞いたんで、やらずにすんでよかった」と話し、女性は答えに窮したという。

「その社員によると、どうやら私の情報を、上司が面談の場で『弊社には、妊活中の人がいて』と話していたそうなんです。女性に配慮した企業というアピールだったのかもしれませんが、妊活や不妊治療はプライバシーに関わるセンシティブな話題。少なくとも、誰にどこまでの情報を開示してよいのかについて、了解をとってほしかった」(女性)

■誰にどこまで伝えるか

 不妊治療と仕事の両立を支援するNPO法人フォレシアを設立した佐藤高輝さん(37)は企業の両立支援を行う際、プライバシーを守りつつ、情報共有のためのコミュニケーションも大切だと助言しているという。

「上長に治療のことを伝える際、誰にどこまでの情報を伝えるかをお互いが確認しておくことが大切です。そして上司の方は、可能な限り不妊治療の基本的な知識を身につけておくことが望ましいです。なぜなら、最初に会社としての提案をするのではなく、部下が何に困っているのかを共感しながら対応ができるようになるので」

 実際、佐藤さんが関わる中で、上層部が不妊治療にまつわる基礎知識を学ぶ研修を実施する企業も増えてきたという。関東地方のあるメーカーでは、ある女性社員が不妊治療のことを誰に相談してよいか悩んでいたところ、男性上司が研修を受けたことがわかり、相談できたという。その上司は、「不妊治療との両立は大変なことが多いと聞いた。治療先で、突然治療日が決まったり、予定が急に変わったりしても、遠慮なく言ってくれたら、対応するからね」と声をかけたという。佐藤さんは言う。

「そういう言葉かけは、本人にとっては嬉しいですよね。今まで通院日の調整を一人で悩んでいたというので、つらい治療の中でも希望になるでしょうしね。実際、その社員は上司への信頼感を高め、モチベーションも上がって、仕事でもいい成果を上げたと聞いています」

(ジャーナリスト・古川雅子)

AERA 2023年4月10日号より抜粋

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