AERA 2023年4月10日号より
AERA 2023年4月10日号より

 一方、同調査では、約3分の1の企業で何らかの支援策があることがわかった。横浜市立大学大学院医学研究科の倉澤健太郎准教授は、企業における不妊治療と仕事の両立支援の取り組みは、二極化の傾向にあると指摘する。

「治療中の人にとって、診療回数の多さ、職場での相談のしにくさといった『両立の壁』はいくつもあるんです。それでも、『病気じゃない人の治療だからと軽くみられてしまう』という患者さんの声も聞く。22年4月から不妊治療が保険適用されて、捉え方に変化は生まれてきているが、まだまだ当事者が直面している壁の大きさに追いついていないのが実態です」

 壁の一つは通院回数の多さだ。現在、2人目不妊の治療を続けている女性(35)は、体外受精に移行してから3年目になる。

「排卵チェックのため、明日また受診してください」

 こんなふうに急きょ診療日が決まり、慌てて会社に申請しても、翌日の午前中には本来は抜けられない重要な会議が入っている、ということもざらだ。採卵の周期によりバラツキはあるが、月に4~5回の通院をこなし、常に「綱渡り状態」で仕事を続けている。

■生殖医療の特殊性も壁

 昨年開院した不妊治療専門の「トーチクリニック恵比寿」の市山卓彦院長は、仕事との両立を阻む背景として生殖医療の特殊性を挙げる。

「受診するのは、30~40代といったキャリアのど真ん中にいる女性たち。妊娠するために月に3回も4回も受診をしなければならないのは、大きな負担です。診療オペレーションを改善し、滞在時間も短縮できないか。医療側で配慮できる余地は多くあると考えています」

 同院では、事前のオンライン予診、後日決済を行うアプリを導入。院内処方を採用することで、不妊治療のクリニックでは平均して待ち時間が1~3時間と言われるところ、同院では院内の滞在時間が30~75分ほどと、大幅な時間の短縮化に結びついた。

 企業内で不妊治療の相談をする場合、誰に、どこまで伝えるかも課題となる。

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