切符は全席指定の特急だった。わざわざ指定じゃなくてもよかったよ。でもありがたい。気を遣ってくれてるのね。自由席はないのかな? 切符を見ると、乗車時間は……わずか6分だった。6分のために指定席? まさに贅の極み。でも6分くらいなら立つけどね。「荷物を網棚に載せてるあいだに着いちゃうんじゃねえかな(笑)?」なんて同行の前座さんと話す。

 京都駅の新幹線改札口を出ると、近鉄の改札口は目の前だったが乗り換え時間がわずかしかない。前座さんと慌てて改札口を抜ける。周りはキャリーを引くインバウンドの観光客の波、波、波。邪魔だ! どけ! インバウンダーども! いや、自分も引きずってるのだけどさ。他人と接触しないように気をつけながらホームを目指す。

 なんとかギリギリで最後尾の車両に乗り込んだ。すぐに電車が発車した。

「俺たちの座席はどこだ?」

「……あー、一番前の車両ですね……」

 乗り込んだ最後尾の車両の通路は、キャリーを引きずりながら座席を探す人たち。

「これ、かき分けていく?」

「うーん、どうしましょう」

「何両編成、これ?」

「……6両です」

「先頭を目指すか、とりあえず」

「ですね、せっかくですから」

 ここから「すいません!」「ソーリー!」「ちょっとすいません!」「ちょっとソーリー!」「すいません! すいません!」「ソーリー! ソーリー!」と謝り倒しながら自分たちの席を目指して旅を続けた。

 数分後、ようやく先頭車両までたどり着いた。

「あった! ここだ、俺たちの席は!!」

[まもなくー、近鉄丹波橋ですーー]

「降りましょう、師匠」

「うん」

 せめて京都の街並みを車窓からでも眺めたかった。これで独演会やって日帰りだ。帰りもこんな塩梅なのだろうか。

 イベンターさんが改札口で迎えてくれた。

「あっという間に着きましたね」

「いかがでしたか? 特急は?」

「謝ってたら着いちゃいました。駅から会場までは?」

「徒歩になります」

「あー、そのほうがいいですね! 京都に来たかんじがまるでしませんから。少しは街を歩いてみたいですね!」

「……」

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