春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔さんが連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「インバウンド」。

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 今(6/18現在)、上野鈴本演芸場と浅草演芸ホールに出演している。街ゆく人を見ると95%がインバウンドの外国人観光客だ。いや、97%……99%、99.9%といってもいい。そして残りのわずか0.1%が寄席の出番を急ぐ芸人だ。だから上野・浅草には外国人と寄席芸人しかいない。寄席の客席にはインバウンドの効果はまるでないので、客席に座っている日本人たちはインバウンドの波のなか身を潜めてなんとかここまでたどり着いた漂流者。どこにいたんだ、あなたたちは? 隠れてないで出てこい。

 観光地は電車もバスも外国人だらけ。大きなキャリーケースをひとりで二つも引きながら、汗をかきかきそれでも楽しそうにしている。住んでるとわからないが、日本ってけっこう楽しいんだろうな。それにしても、外国の方は車内でお年寄りに席を譲るとき、躊躇なくサッと行動に移しますね。アレは見習いたいね。

「オーバーツーリズムですわ」と京都の落語会のイベンターさんが言っていた。「病院に行きたいお婆ちゃん、バスが満員で乗られへんのです。タクシーもなかなかつかまらないし、予約するのも大変ですわ……」だそうだ。

 4月の京都独演会のとき。「新幹線で京都駅まで着いたら、近鉄に乗り換えて頂けますか?」ということになった。お婆ちゃんが病院に行けないのに噺家がタクシーに乗るわけにもいかない。

 いつも京都駅からはタクシーに乗せて頂くのだが、今回は在来線に乗り換えて会場最寄り駅まで行く……これはこれでウキウキする。タクシーは楽だけどちょっと味気ないのよ。贅沢だけどね。

 会場は京都市伏見区の呉竹文化センター、最寄り駅は近鉄丹波橋駅。「タクシーだと30分くらいなんですが、特急で京都駅から1駅ですので……」。なんだ電車のほうが早いのか。もっと旅情を味わえるのかと思ったのに。

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