TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は映画「関心領域(The Zone of Interest)」について。

「関心領域」
5月24日(金)新宿ピカデリー、TOHOシネマズシャンテほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
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 僕はラジオ屋だからわかる。この映画は音の作品だ。微かな音がいつも流れている。幸福な風景から目を逸らせ、目を閉じて耳を澄ませばその音はとてつもなく恐ろしいものだとわかる。救いを求める悲鳴や容赦のない乾いた銃声、追い立てる犬の鳴き声が牧歌的な映像と重なっている。

 映画タイトル「関心領域(The Zone of Interest)」とは、ナチス親衛隊がポーランドのアウシュヴィッツ強制収容所群を取り囲む地域を呼んだ言葉。1945年、関心領域には二つの世界があった。両極端のそれらは隣接し、一列の塀と有刺鉄線で区切られている。

 厳格なカトリック教徒を父に持つルドルフ・ヘス収容所所長の邸宅には妻ヘートヴィヒ自慢の美しい庭園があり、鳥がさえずり、温室では野菜が栽培され、近くの川で子どもたちは川遊びをしている。


 塀の向こう側にある煙突の黒煙は何だろうと観客は思う。そういえば、所長宅に技術者が招かれていた。技術者は焼却炉をいかに効率よく稼働させ、「積み荷」を焼却できるかを所長にプレゼンしている。もしかしたら、「積み荷」とはユダヤ人のこと?

 妻は毛皮のロングコートを着て鏡に向かってうっとりポーズをとっていた。毛皮はユダヤ婦人から奪ったものなのか? 絵本の傍らで子どもがどこから手に入れたのか入れ歯をカチカチ鳴らして遊んでいる。それもユダヤ人のものなのか?

「関心領域」
5月24日(金)新宿ピカデリー、TOHOシネマズシャンテほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.
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