そして、このように招聘されたアーティストたちとはまた別に、日本の歌手たちが次々に「カーネギーホールデビュー」を果たした時代があった。
これを言うと驚く人もいるが、実はスケジュールが空いている日であれば、誰でもカーネギーホールを借りることができる。だから、日本の景気が良かった頃は、日本から次々と歌手たちがニューヨークに来て、大ホールのスターン・オーディトリウムをレンタルし、「デビュー」していたのだ。
お金さえ払えば、素人の合唱団でも、カラオケ大会にでも貸してくれる。ルビンシュタインやトスカニーニ、レオナルド・バーンスタインといった伝説の巨匠たちが立った同じステージに立つことができるのだ(もちろんクラシック以外でも、ビリー・ホリデイ、チャーリー・パーカー、マイルス・デイビス、そしてビートルズもここでコンサートを開いている)。ある意味、夢のある話でもある。
日本のスタッフは機材に指一本触れられず
実を言うと筆者は30年前にニューヨークのイベント会社に勤務しており、こうした日本の歌手の「カーネギーホールデビュー」のコーディネーションと裏方を務めたことが何度かある。
その時にとても印象に残っているのは、ホール自体を借りるレンタル料というのは想像していたよりも安かったが、トータルでは高くついたことだ。というのも、ステージハンズと呼ばれる、照明や大道具など舞台の裏方さんたちのギャラは、会場のレンタル代に含まれていないのだ。
米国のステージハンズの組合はとても強く、日本から来たスタッフは指一本機材に触れることは許されない。細かく指示を与えながら、アメリカ人のステージハンズたちがのんびりと動くのをイライラしながら見ていることになる。
ある日本人アーティストの公演時に同行してきた照明担当者は、前日のセッティングの日に「俺だったら、一人でもうとっくに終わってるけど」と現地スタッフにきれそうになっていた。このステージハンズのギャラは馬鹿高く、レンタル経費が3倍以上に跳ね上がるのである。