時代は少し前だが、「歌手の〇〇カーネギーホールデビューで大成功!」といった芸能ニュースが出ていたのを記憶してはいないだろうか。音楽の殿堂であるこの檜舞台のデビューに、「すごい!」と感じた人も多くいたのでは? ただ、現実は少し違うらしい。以前、そうした日本人歌手らの公演のコーディネートをしていたという現地ジャーナリストの田村明子氏が、舞台裏を解説する。
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6月9日にニューヨークのカーネギーホールで、オペラ歌手の村田孝高氏がピアニスト岡崎由美氏の伴奏でリサイタルを行った。
音楽ファンなら周知のように村田氏の配偶者は「ベルサイユのばら」など数々の名作を生んだ漫画家、池田理代子氏。自らもオペラ歌手でもある池田氏が、コロナ後のエンタテイメント活性化を目指し、自腹をきって現地在住の日本人を招待したいとの希望で、筆者もありがたく鑑賞させていただいた。
あまり知られていないが、カーネギーホールには3つの会場がある。通常「カーネギーホール」と言えば客席数2800席ほどの大ホール、スターン・オーディトリウムのこと。その他に以前は映画の名画座だった地下スペースに作られた約600席の中ホール、ザンケル・ホール、さらに約270席の小ホール、ウェイル・リサイタルホールがある。
今回村田氏がリサイタルを行ったのはザンケル・ホールで、会場はほぼ満席となった。現地在住の日本人がほとんどだったが、中には自分でチケットを購入したという観光客らしい西洋人の姿もあった。前半は岡崎氏のピアノソロ、後半は村田氏が「マクベス」などオペラのアリアを何曲か歌い、最後は手拍子に合わせてアンコールの「フニクリフニクラ」で楽しく盛り上がった。
小澤征爾氏ら世界的音楽家が常連
1891年に完成したカーネギーホールは、言うまでもなく世界でもっとも権威ある音楽ホールの一つだ。ここの舞台に立つことは、すべての音楽家の夢と言っても過言ではないのかもしれない。日本人では今年亡くなった小澤征爾氏、ピアニストの内田光子氏、ヴァイオリニストの五嶋みどり氏らは、このカーネギーホールに招聘(しょうへい)されてきた常連のアーティストである。