5月の「セイコーゴールデンGP2024東京」男子400mハードルで日本歴代5位の48秒36で優勝した豊田兼。195センチの長身を生かした力強い走りで昨年は学生世界一にも輝いた(写真:YUTAKA/アフロ)
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 AERAの連載「2024パリへの道」では、今夏開催されるパリ五輪・パラリンピックでの活躍が期待される各競技のアスリートが登場。これまでの競技人生や、パリ大会へ向けた思いを語ります。

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 陸上界の「二刀流」、それが慶應義塾大4年生の豊田兼だ。

 種目は110mハードルと400mハードル。同じハードルとはいえ、両種目に求められる能力には大きな違いがある。考えてみて欲しい。100mと400mを兼ねる短距離選手は、世界レベルでは絶滅危惧種ではないか。

「昔はトッパー(110mハードルの俗称)の方が好きでしたけど、いまは4パー(400mハードルの俗称)の方が好きになってきてます」

 慶應の日吉キャンパスで穏やかに話す豊田は昨年10月、400mハードルで世界陸連が定めるパリ五輪の参加標準記録、48秒70をクリアする48秒47をマーク。そして今年5月19日には東京で、日本歴代5位となる48秒36と自己記録を更新して優勝した。6月27日に始まる日本選手権で優勝すれば、五輪出場が決まる。

 身長195センチの長身。「高校まで桐朋に通いました」と微笑むほど、母校への愛着がある。桐朋といえば東京・国立にある私立の名門。卒業生には絵本作家の五味太郎、作家の赤川次郎、俳優の西島秀俊らの名前が並ぶ。

 私は高校時代の豊田のレースを何度か見る機会があった。その長身、獰猛(どうもう)とも呼べる速度は、東京・多摩地区のブロック大会では異彩を放っていた。ただ、全国で表彰台に上がるまでには至らなかった。豊田は当時をこう振り返る。

「陸上も強豪校ではなく、桐朋で良かったです。校内の300mトラックは土で、下半身への負担が少なかった。もし反発係数の高いトラックで練習していたら、ケガのリスクが高まったかもしれません」

 高校3年の時、世界をパンデミックが襲い、青春の一部が失われた。ただ、豊田は「セイコーゴールデングランプリ」という大きな大会で、国立競技場で走る機会を得た。

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