生命保険業界には悪質な勧誘がはびこる。複数の商品を扱う乗り合い代理店のなかには、公平をうたいながら実際には自らの「うまみ」を優先した商品を売りつけるケースも。事例をもとに、その巧妙な手口を 近刊『損保の闇 生保の裏』(朝日新書)から一部を抜粋して解説する。
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損保では1998年に算定会料率の使用義務が廃止され、保険料率の自由化が進んだ。自動車保険で人身傷害を補償したり、事故を起こしにくい契約者の保険料を割り引いたり商品競争が起きた。
生保では損保のような明確な出来事はなかったが、行政の商品認可のスタンスが変わったことなどで価格規制は薄らいだ。 戦後型保険システムの第一の特徴だった「同一商品・同一価格」が崩れ、顧客にとって生損いずれにおいても、複数の保険会社から自分にふさわしい商品を提案してほしい、というニーズが生まれた。
だが、比較推奨は「諸刃の剣」だ。
複数の商品を顧客目線で比較し、推奨していれば素晴らしい。だが、実際には手数料が高いなど自分たちに実入りが多い商品を売っていた場合はより悪質な勧誘となる。
「公平さ」をうたう悪質さ
自分に最もふさわしい商品を紹介してくれていると思ったら、実際は自分たちの「うまみ」が多い商品を売りつける—。先ほど述べたように、こうした手法は「公平性」「客観性」を装っている分、顧客を信用させやすく、悪質だ。
比較推奨を偽装するような手口は、巧妙化している。保険商品間だけでなく、金融商品間で公平、客観的であるかのように勧誘する。典型的なのが「マネーセミナー」でのトラブルだ。
関東の医療機関に勤める女性(32)は2016年、母親が亡くなり、多額の遺産を相続した。近しい親族はもう89歳の祖母だけ。管理は自分がやるしかない。ネットで検索して見つけた「マネーセミナー」に参加した。
「無料でお金のことが勉強できるかな」
そう思って気軽に参加したのが大きな落とし穴だった。