黒岩麻里『「Y」の悲劇――男たちが直面するY染色体消滅の真実』
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 旧約聖書には、世界で最初の人類は「アダム」(男性)で、「イブ」(女性)は、アダムの肋骨(あばらぼね)から創られたと書かれています。しかし、諸説はあるものの、科学的な見解からは、ヒトの性のデフォルト「原型」は女性で、男性は女性をカスタマイズ(設定変更)してつくりだした「模型」といわれています。Y染色体はそのカスタマイズに必須のツールで、Y染色体がなければ男性をつくり出すことができないのです。

 つまりY染色体は、男性にとってなくてはならない存在なのです。それにもかかわらず、Y染色体は消えてしまうかもしれない――。

 Y染色体が消えてしまったら、男性は生まれてこなくなるのでしょうか?

 そして、残された女性だけでは子孫が残せず、Y染色体の消失は人類の滅亡を意味
するのでしょうか?

 そもそも、なぜY染色体は退化を続けているのでしょうか?

 Y染色体が抱える問題は、ヒトという種の存続に影響を与える壮大な進化に関係したものだけではありません。実はもっと身近で深刻な問題も孕(はら)んでいます。いま、この記事を読んでいるあなたの身体の細胞から、Y染色体が失われつつあるかもしれないのです。そしてY染色体の消失が、男性の疾患に深く関係しているともいわれています。

 Y染色体はなぜ、消えゆく運命にあるのか?

「男と女の2種類」は科学的に否定されつつある

 ヒトの男女に生物学的な性差があることは間違いないのですが、古くからある「男と女」という二項対立的な固定観念は、最近の科学研究からも否定されつつあります。

 そもそも、生物は子孫を残すために、「性」を使っていませんでした。分裂などで自身のコピーをつくる、というシンプルな方法で子孫を増やしていたのです。地球上の生物の壮大な進化の歴史を見ると、「性」をもつようになったのはつい最近のことです。しかも、それらはオスとメスである必要もありませんでした。

 数多(あまた)の生物を見渡してみれば、性は2つとは限りません。この地球上には多様な性があり、ヒトもまた例外ではないのです。多様な性の在り方、これは、長い長い年月の中、生物が歩んできた素晴らしい進化の証なのです。

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私たちの性には、どんなバリエーションがあるのか?