手書きの銘柄ノートを見ながら楽しそうに株の話をする桐谷さん(撮影/小山幸佑)

「午後3時の取引終了後、新宿のスポーツクラブのプールにぷかぷか浮いていました。株価が下がったなぁと心の中で嘆いたあと、午後6時に家に帰って、パソコンでネット証券の取引画面を開くと赤一色でした。

まず注意喚起の黄色い画面が出るそうなんですが、僕の場合はそれを飛び越えていきなり真っ赤です。

信用取引で買いまくった株が下がったので、2〜3日後までに二百数十万円を入金せよと画面に書かれていました。

その後、株価が下がるたびに追い証です。大切に持っていた金(ゴールド)もたたき売りました。

他の証券会社に置いていた株も、信用取引の担保の足しにするためネット証券に移しました」

『日経マネー』掲載時に「悠々自適の3億円」だった資産は1億数千万円まで減った。

「もう信用取引は、やめようと思いました。『優待投資専門で行く』と雑誌で宣言したのもこの頃です」

 ところが、である。2008年3月に米国の投資銀行ベアー・スターンズを(政府に手を貸す形で)JPモルガン・チェースが救済合併し、金融不安がいったん解消。株価が反発しはじめた。

家賃払えず食べ物もない

「外資系証券の有名ストラテジストが日経平均は1万2000円から1万8000円まで上がると言ったのを信じました。

『下がった株価は上がるんだ』と思って、また信用買いです。でも(株価は)すぐ下がった。損は膨らむばかりで。

とどめが9月のリーマン・ブラザーズ倒産です」

 桐谷さんが「思い出したくもない」と話す、世紀の大暴落だった。

「棋士は引退しているので月給ゼロです。自宅の家賃13万円を払うお金はないし、食べ物もないし。夜も眠れず、体調も悪くて、ひもじくて、本当に死ぬかと思いました」

 何が幸いするかわからない。日々の食事にさえ困る桐谷さんを救ったのが優待品だった。お米にレトルト食品、調味料、菓子……。現物で買っていた株式から次々に優待品が届きはじめたのである。

 ようやく元気が出てきた頃、『ダイヤモンドZAi』『日経マネー』『ネットマネー』などのマネー誌で人気者になっていた。

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「失恋をきっかけに株を始めたわけではありません」