桐谷さんは毎月21日発売のマネー誌『日経マネー』を購読していた。
「読者アンケート欄に自分のことを書いたら、取材したいと連絡が来ました。その後の誌面に『資産3億円で悠々自適の桐谷さん』みたいな記事が載りました。すると、記事を見た別の雑誌が取材に来て……」
メディアからの取材申し込みが立て続けに。マネー誌ではない普通の雑誌からも依頼があった。株価暴落のフラグ。
「そのあとですよ。2008年秋にリーマン・ショックが襲ってきました」
桐谷さんは2007年に棋士を引退したばかりで、これからはデイトレ(日計り取引)で稼ごうと思っていた。
「昼間はパソコンにかじりついていました。信用取引をたくさん使って、大儲け狙いです。最初は勝ったり負けたりでした」
初の追い証が…
桐谷さんは細かい数字までよく覚えている。棋譜を脳内で再生するかのごとく。
「証券専門紙に、株式評論家(仮にAさんとする)が書いている有名なコラムがあり、毎週月曜の朝8時半ごろにネットで読めたんです。
2008年1月4日の大発会の取引開始20分くらい前に見に行きましたら、Aさんは『日本株は今年暴騰する!』とぶち上げていました」
今でもその文章をはっきり覚えているという。実際には暴落したわけだが。
「すっかりそのAさんのコラムを信じてしまい、どんどん買いを入れたんです。
たまたま、私が取引している証券会社が売買手数料のバーゲンセール中だったのも不運でした。1000万円までの取引なら、通常4000円ちょっとの手数料が1000円になるというんですよ」
990万円近くの注文を入れたはずが、うっかり1000万円を超えてしまい、買いを1700万円まで増やした。
「翌日も、さらに次も……と2000万円近くまで買いました。だってAさんが今年は暴騰するって言うから」
どう考えても無謀な買い方である。
「さっと血の気が引いたのは1月20日のことです。はじめての追い証(※)を入れました」