一言しかセリフがなかったら
例えば、とてもガラが悪いのに、食べ方が上品なキャラクターがいたとします。そうすると、「もしかしたら良家で厳しく育てられた反動で、今こうなっているのかな」と想像します。それが合っていることもあるし、違うこともあるし、そこまで設定されていないこともあります。
でも、役に声を吹き込む側としては、人生を埋めることで役の説得力が増していく。
視聴者も役のちょっとした言動から想像力が広がっていくのではないかと思っています。
──この作業をするかしないかは大きいという。
島﨑 例えば、アニメーションの一話目では、「パス」という一言しかセリフがなかったとします。試合中の空気感を読んで、なんとなく「パス」と言うだけでももちろん成立します。ですが、そのキャラクターは「パス」と言うまでの長い間、フィールドを必死に走っていたり、試合展開に「もう無理だ」と思ったり、「頑張ろう」と思ったりしているはず。「パス」というセリフに至るまでのプロセスを丁寧に埋めるのと埋めないのでは、セリフの伝わり方が変わるんです。
役をもらったからには
もしかすると、耳に届く音としてはそこまで変わらないかもしれません。でも、余白を埋める作業をひとつひとつのセリフに対してやっていくと、生きている人間として感じてもらえて、人の心をより揺さぶる、唯一無二の言葉になっていく。
役を任せてもらったからには、常にそこまで持っていきたいんです。
――ひとつひとつのセリフを、唯一無二のものにする。いきいきと躍動するキャラクターは、そんなプロフェッショナルの信念が支えている。
(構成/ライター 小松香里)