AERA 2024年5月27日号より

 こうした若年期の過度な減量は、発育障害や生殖機能障害といった深刻な事態を引き起こす。

「これらの問題は国際オリンピック委員会によっても指摘されていて、『相対的エネルギー不足』と言われます」

 と指摘するのは、これまで多くのオリンピック選手や若年アスリートの栄養などをサポートしてきた、日本スポーツ栄養協会理事長で神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子教授だ。

 成長期には普段以上にエネルギー量を摂取しなければ、成長によって増加するエネルギー消費量を補うことができない。エネルギーが不足すれば、身長が伸びないなどの発育障害に加え、骨密度や免疫力の低下といった健康障害が起こり、筋力や持久力、回復力の低下などパフォーマンス低下にもつながる。鈴木教授は、こう訴える。

「子どもが部活動をしていて、身長の伸びが止まったり、貧血を繰り返したり、疲労骨折をするようになったらそれはエネルギー不足のサイン。運動量に対して食事などが足りていないので、食べる量を増やせるなら食べる。もしくは運動量を減らしてほしい」

 いま、アスリートの食事や体重を研究する本田さんは、部活動と医学の緊密な連携が重要な課題だという。

「学校では年に1回しか健康診断がありません。月に1度は家庭で身長、体重の成長曲線をつけて、理想に近いカーブが描けているか確認してほしい。問題があれば、男子なら小児科や整形外科、女子なら婦人科など、スポーツドクターの資格を持つ医師に相談することです」

現場の指導者の理解に遅れ、スポーツ界の慣習見直しを

 研究者たちを中心に警鐘を鳴らす声が上がり始めてはいるが、現場の指導者の理解はまだ十分ではない。

「学校の実績や名誉のために結果を追求する勝利至上主義が障壁になっています。もちろん子ども自らがそれを望んでいるという側面もあるとは思いますが、その結果、発育発達を害するとなれば一生をつぶすのと同じ。かつては『水分を取るな』という指導が当たり前に行われていましたが、今では熱中症予防として水分補給が常識になっています。同じように、勝利至上主義の指導が発育障害を引き起こすという認識が広がれば、こうした問題は減っていくはずです」(鈴木教授)

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