AERA 2024年5月27日号より

「同じ量の酸素を取り込むと仮定して、体重が増えれば最大酸素摂取量は低下し、体重を減らせば、相対的に最大酸素摂取量は高まります。車で例えるならエンジンの排気量に相当します。排気量が大きなトラックよりもスポーツカーのほうが速く走れるのは車体重量が軽いから。人も同じように体重を落とせば速く走ることが可能という結論に至るわけです」

 体重を落とした場合、特に健康被害に陥りやすいのは思春期の女子だ。長距離走などの持久系スポーツに加え、新体操やフィギュアスケートといった審美系スポーツで注意が必要だという。

「体重、あるいは体脂肪率が影響する競技です。思春期の女性は中学生以降、第二次性徴が始まり、体脂肪がつくというのが自然の発育。その段階になれば、通常であれば月経が始まります。ただ、長距離走やフィギュアスケートなどは体重や体脂肪が増えるとパフォーマンスが落ちる競技なんです。そのために、指導者から体重を制限することを課され、結果、初経が非常に遅くなったり、月経が止まってしまう無月経に陥ります」(山内教授)

「痩せれば速く走れる」体重に対する強迫観念も

 そんな危険性があるにもかかわらず、部活動の現場では、徹底した食事制限、体重管理が日常的に行われている。

 かつて強豪校の陸上部に所属して全国高校駅伝への出場経験があり、現在はランニングクラブを主宰する関東在住の40代の女性は、学生時代の経験をこう振り返る。

「『痩せれば速く走れる』という価値観が暗黙の了解であって、皆が痩せていて当然だという空気でした。実際に軽いと速く走れるので、常に頭の片隅で自分の体重を気にしていました」

 高校時代の3年間は寮生活で、食事は1日3食が提供されていたが、体重が変動しやすいタイプだったため、人一倍体重管理には気を使っていた。

「毎日体重を記入しなければならず、体重の変動に頭を縛られていました。本来の目的は競技力を上げることだったはずなのに、いつからか痩せることが目的になってしまっていったんです」

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