しかし、ヒトリエは瞬く間にそんな先入観を覆してみせた。緻密なアレンジ、起伏に富んだメロディーを生楽器で演奏することで生まれる音楽性はきわめて斬新で、それまでの日本のロックバンドの在り方を更新するようなパワーを持っていたのだ。
その結果、ヒトリエはロックシーンとインターネット文化をつなぐ存在になった。YOASOBIのAyase、ヨルシカのn-buna、ソロアーティストのキタニタツヤなど、“ボカロPを経験したクリエイターがJ-POPシーンで活動する”という道筋を作った一人とも言えるだろう。
2014年のインタビューでwowakaは「ボーカロイドだけじゃなくて、アニメだったり、アキバカルチャーも経てきてるんですよね。そういう文脈を踏まえた上で、こういうバンドをやっているっていう。この先はどこにでもアプローチできるバンドになっていきたいですね」と語っていたが、まさに有言実行だったというわけだ。
筆者は音楽ライターとして何度かwowakaに取材する機会があったが、その印象は今も強く残っている。どんな質問もはぐらかすことなく、真っすぐに答える姿勢からは、彼が作ってきた楽曲と同様、「自分はこうしたい」という意志が伝わってきた。その根底にあったのはおそらく、ボカロ文化とロックシーンへの愛着、そして、それぞれのファンに対する信頼だったのだと思う。
多くのアーティストに影響を与えた功績
ヒトリエは、2019年にwowakaが逝去した後、ギターのシノダがボーカルをつとめ、イガラシ(ベース)、ゆーまお(ドラム)の3人で活動を継続。今年メジャーデビュー10周年を迎え、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でwowakaの作詞・作曲による楽曲「アンノウン・マザーグース」を演奏し、音楽ファンからの注目を集めた。この楽曲はアメリカの音楽フェス「コーチェラ」に出演した初音ミクが歌唱した楽曲でもある。