私は、一日でも夫に長く生きてほしかったですよ。そこは夫とずれてるところでした。カップ麺とか、ファストフードとか、夫は最後まで好きなものを食べたけれど、どうせ食べるならもっと栄養バランスのいいものを食べたほうがいいんじゃないかと、心配でイライラしたり。最後、腹水がたまってくると、彼は毎週抜いていました。でも腹水を抜くと栄養などのいいものも抜けてしまうから、抜かない方がいいという医師もいる。もちろん苦しいから抜くんだけど、腹水を抜いて楽になるのって一瞬なんです。あれが夫の命を縮めたんじゃないかと思うと、もっと強く止めればよかった。やっぱり後悔することはあります。
彼のすごいところが、あれだけ娘命なのに、娘のことも心残りじゃなかったところ。「楽しく生きろ、それだけ」と。何が幸せになるか分からないから、「今が楽しい」現状を連続させていくことが、結果として楽しい人生になる。だったら、今が楽しいことが一番大事なんですよね。私も心残りがないように、やりたいことはじゃんじゃんやっていこうと思います。いつ死んでもいいというのはすごく幸せな生き方だと教わりました。
彼のブログを読み直し
でもね、夫は一銭も残さなかったんですよ。亡くなってから口座を確認したら、残高は20万円ちょっと。そのお金はたまたま2月に振り込まれた給料で、それ以前のお金は全部きれいに使っていた。普通なら妻子がいて、一銭も残さずに死ねないですよね(笑)。なんとかなるでしょ、と言って本当になんとかなって、食べたいものを食べ、やりたいことをやり尽くし、死にたい場所で死んだ夫でした。
今、彼が昔書いたブログをゆっくり読み直しています。娘が小学校にあがったとき、彼が心配して会社を抜け出して見にいった話なんかを読んでは、「ああ、こんなことあったな」と。読み終わるのが怖いけれども、夫のおかげで本当に面白くて楽しい結婚生活を送れました。
(構成/編集部・大川恵実)
※AERA 2024年5月27日号