ところが、「サンソン~」で田山さんが演じるギヨタンは、フランス革命の時代に生きていた医師。田山さんがどんなに似たような原体験を探していっても、何も見つかるはずがなかった。
「だから僕は、『サンソン~』では、自分というものをいったんなくして、役に自分を近づけていくやり方をとったんです。その芝居が中止になって、再始動したときには、以前のような動きはできず、セリフのスピードも遅くなっていた。でも、70を過ぎてより高い課題を与えられたことが、うれしくてうれしくて。少しでも、白井さんのイメージに近づきたいです」
新しくキャスティングされた若い俳優からもいろいろと刺激をもらっているという。
「自分でも、『どうしてそんなにやりたがる?』って不思議なんですが、若い才能と出会ったときに、『何か刺激ちょうだい』って言いたくなる自分がいました。また欲が出てくるんですよ」
最近のさらなる楽しみは、妻が田山さんのためにお弁当を作ってくれることだとか。
「お弁当には、手書きでその日のメニューを書いた紙が入っています。出がけに『メニューを書いた紙がない!』って大騒ぎしたりするし、味も僕の体を思うあまり、すごく薄いんですが、その心遣いも含めて、おいしくいただいています」
「舞台のことを話すつもりが、女房自慢になっちゃったかなぁ」と言いながら、田山さんは豪快に笑った。(菊地陽子 構成/長沢明)
※記事の前編を読む>>「ベテラン俳優が直面した70歳の壁 医者の『お年ですから』にショック」はコチラ
※週刊朝日 2023年4月14日号より抜粋