97人もの子どもが自分の精子から誕生したとわかった。ディランさんは子どもへの道義的責任を果たしたいと考えている(ディランさん提供)
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子どもの出自を知る権利をめぐって「精子バンク」にあたらめて注目が集まっている。子どもの権利を尊重した提供者は、その後どんな人生をおくるのか。海外の事例を取材した記事を再配信する。(「AERA dot.」2024年4月21日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)

【写真多数】提供した精子で生まれた子どもたちと交流するディランさん

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 生殖補助医療が進んでいる。学生時代に精子バンクに精子を提供していたディラン・ストーン=ミラー(33/以下、敬称略)には、彼の精子で生まれた子どもが97人以上いるという。子どもがいることを知ってから、ディランの人生は一変した。一体、何が起こったのか。

「子どもを授けてくれてありがとう」

 2020年10月のある日、新しい職場の初日だった。

 コロナ禍で、ディランはマスクをつけてオフィスに入り、新しい同僚やクライアントに挨拶をした。30分ほど経った頃、インスタグラムに、まったく知らない女性からメッセージが届いた。

“I want to thank you for the gift of the children.(子どもを授けてくれてありがとう)”

 一瞬戸惑ったが、すぐに意味がわかった。スマホで彼女のプロフィルをタップすると、自分とよく似た女の子の写真が出てきたのだ。

「見た瞬間、自分の子だとわかりました。その瞬間気持ちが込みあがってきて、涙が出そうになりましたが、新しい職場の初日で涙を流すと奇人と思われるので必死に涙をこらえ、平静を保ちました」

自分の精子で子どもを産んだ40人の母親たち

 午後、ディランは彼女にメッセージを送った。すると、彼女は「40人の母親」と連絡を取り合っていることがわかった。その40人は全員、ディランの精子を使って子どもを作ったという。

 ディランは精子提供の際、〈オープンID〉を選んでいた。子どもの出自を知る権利を尊重したためだ。

「最初の子どもが18歳になるまで、つまりあと10年間は連絡が来ないと思っていました」

 なぜ、予想より早く連絡があったのか。ディランは、その女性にどうやって自分を追跡したのか聞いた。すると、精子バンクから提供された数少ない情報からたどったという。ファーストネーム、出身都市、両親の仕事だ。

ディランの父親は犯罪心理学者で、アトランタでその専門家をリサーチすると、父親の写真が見つかった。女性はその父の目を見て、精子提供者はその息子だろうと認識したという。フェイスブックで父親を見つけると、そこにディランもつながっていた。女性は、ディランのインスタグラムを数カ月フォローしていたという。

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