――落ち込んだ時、どうやって気持ちに折り合いをつけていますか?
電話が終わって相談内容を記録用紙にまとめる時に、自分の気持ちもそこに置いていくようにしています。あとは毎月、相談員同士のグループワークがあって、「こんな電話があって困った」「この対応でよかったんだろうか」などと一緒に考えられるので、一人で抱え込まずに済みます。自殺願望のある方からの電話は全体の15%くらいあるので、その対応をロールプレイング形式で練習する研修もあります。
――「死にたい」と言われたら、どう対処するのですか?
「今手首を切ってます」とか「薬を飲んだ」とか「富士の樹海に向かってる」とか。そういう切羽つまった電話を受けた時は、ブザーを押して事務局の人を呼んで、子機で一緒に聞いてもらうようにします。
もし手首を切っていたら止血するよう、ビルの屋上にいたら安全な場所に行くよう指示をしてから、じっくり話を聞きます。それでも死にたい気持ちが消えない場合は、「明日の何時にまた電話をかけてください」と約束する。継続的な電話相談は原則しませんが、命が危ない場合は、そうやって1日1日つないでいきます。
気持ちを吐き出すことで人は変われる
不思議なもので、自殺すると決めても、死ぬ前にそれを誰かに知ってほしいと思う人は少なくないんですね。マザーテレサは、亡くなる間際の人の手を握って「あなたは一人ではない」と伝えたそうですが、やっぱり人間が一番弱いものは、孤独だと思います。
――これまで受けた中で、「忘れられない電話」は?
10年以上前、明け方4時くらいに、京都に住む女性から電話がありました。仕事をしながら障害のある子どもを育てるシングルマザーで、「(元夫との)離婚の裁判に疲れた」「子どもを殺して一緒に心中しようと思う」と。
でも1時間くらい話を聞いていたら、最後に泣きながら、「思いの丈をこんなにじっくり聞いてもらったのは初めてです。裁判もなんとか頑張ってみます」って言ってくれたのね。こちらが何かアドバイスしたわけではないのに、不安でやるせない気持ちを吐き出すことで、人は変われるんだと思いました。
いのちの電話の役割は、埋もれてしまった前向きな気持ちを掘り起こす支えになること。解決策を指示するのではなく、一人ひとり自分で行動する力があると信じて励ますことを心がけています。人はどんな時でも、希望を持てるはずだから。