グローセル システムソリューション本部 システム開発2部 部長 宮嶋健太郎(みやじま・けんたろう)/1977年生まれ。東北大学大学院修了。2002年、日立製作所に入社。08年、半導体ひずみセンサーの開発をスタート。12年に現・日立Astemoに出向し事業化。18年、グローセルに半導体ひずみセンサー事業が移管(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年5月13日号にはグローセル システムソリューション本部 システム開発2部 部長 宮嶋健太郎さんが登場した。

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 金属などを切削する製品加工は日本のものづくりを支える技術の一つだ。ただ、工具の摩耗や温度変化で加工時に異常が生じてしまうことも多い。微調整は熟練工の技量に頼ることがほとんどで、技術の継承は業界全体が抱える課題となっている。

 悩みを解決しようと、目ではとらえることができないほどわずかなひずみを検知する半導体センサー「STREAL」を開発した。最初の開発から5世代目にあたる。1千万分の1のひずみを見つけ出せるまでに精度を上げ、長さ1キロの線路なら0.1ミリほどの伸び縮みを検知できる。

 そのサイズはわずか3.2ミリ角と、小さいことも特徴の一つだ。センサー素子や回路などすべてを集積していて、製品自体に内蔵することができる。センサーから得られたデータをパソコンなどの外部端末に送信すると、物体に生じるわずかな「ひずみ」がデジタルデータとして表示され、金属加工の事例では加工状態をリアルタイムで把握できる仕組みだ。

 こういった点が評価され、これまでに累計700万個以上を出荷。蓄積されたデータは機器の高精度な制御や状態の監視などにも活用できることから、ロボットやインフラ構造物などへの搭載が進んでいる。

 米アップル社のパソコン、マッキントッシュに感銘を受け、半導体の技術者を目指した。大学院修了後、日立製作所で最先端半導体の開発に従事。順調に思えたが、日本の半導体産業は衰退期を迎え、開発から撤退する企業も多かった。

 新しいやり方で新しいことにチャレンジするべき。そう感じていたころ、携わることになったのが「ひずみセンサー」の開発だった。ニッチな計測分野ではあるものの、新しい価値を生み出せる可能性を直感。その後に「ひずみセンサー」事業の移管先となった現在の会社で開発責任者を務めている。

 大切にしているのは、半導体設計者がデザインするのは「社会全体を幸せにする未来」だと教えてくれた、かつての上司の言葉だ。「開発パートナーやエンジニアら多くの人を巻きこんでチャレンジを続けるのは難しいことでもある。でも社会全体を豊かにするという大きな目標を掲げることで一つになれる。まだまだ可能性を追求します」

(ライター・浴野朝香)

AERA 2024年5月13日号