この後、様々な角度から原因究明がなされるだろうが、私たちは日常の安全な身の置き場から離れて旅に出る。
非日常である時間や空間を求めて。
私も旅好きで、なぜ旅に行くのかといわれれば、私自身も知らなかった異空間に自分を置いてみたいと思うからだ。そこで感覚をリフレッシュする。
従って「安全な旅」などというキャッチフレーズがあると魅力が半減する。「あなたのまだ知らないスリリングな経験」などという方が魅力的に感じる。
旅とは、新しいもの、知らないものを経験することだが、その裏に、初めての経験に伴うスリルや危険も含まれている。
人が旅に出るなかには、否応なくそうした要素があるのだという自覚を新たにしたい。
東京の街にも外国人観光客の姿が目立ってきた。欧米をはじめアジアの人々の姿も増えている。旅とは何か、自分の心に問うてみる。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2023年4月14日号

