「このままでは日本が滅びてしまいそうで心配です」

 そう懸念するのは子どもたちのネット依存に寄り添ってきた塾講師の女性だ。なぜ塾講師が、と疑問に思う人もいるかもしれない。学校も行けないほどオンラインゲームにはまってしまった子の親が、「せめて勉強だけは」と学習塾を頼ることも多いそうだ。

 この女性が寄り添った生徒たちの何人かはゲーム障害で入院を余儀なくされた。中には幻覚を見たり、失神したり、祖父母にまで暴力をふるったりする子もいたという。小さい頃からタブレットやスマホを自由に使うことが許されていた子どもほど、のめり込んでしまう傾向があるそうだ。

親の関わりが子の体力に影響

 子どもの体力や視力、学力も低下している。

 オンラインゲームやSNSの普及と並走してコロナ禍を機にインドア派が増えた。加えて教員の働き方改革も手伝って、球技大会やマラソン大会の廃止など、学校での運動時間も減少傾向にある。さまざまな原因が重なり、スポーツの習い事や部活をしていない子どもの体力低下が懸念されている。習い事や部活は送迎や手伝いなど親の関わりが多い。見方を変えると、親の積極的な関わりが子どもの体力を左右しているという時代を迎えている。放課後に公園で鬼ごっこや木登りをして体力を養っていた親世代とは大きく異なる点だ。

 体力問題とともに危惧されているのが、子どもの視力低下だ。最新の文部科学省の調査では、視力が1.0未満の小中高生の割合が過去最高になった。これは長時間に及ぶスクリーンタイムが影響していると考えられている。視力だけではない。取材を進めると、子どもたちの集中力や語彙力、自己コントロール力も下がったと現場の教員たちは感じている。別の調査によると、ゲーム時間が長くなるほど平均正答率が下がることも明らかになっている。

 小学校現場でよくささやかれているのが子どもたちの二極化だ。親が子どもに関心を持っているか野放しになっているかで、子どもの生活態度や学力が二極化しているそうだ。特に懸念されているのがネットの利用時間だ。

 こども家庭庁の青少年のインターネット利用環境実態調査(2023年度速報)によると、1歳で約3割、2、3歳では約6割がインターネットを利用している。スマート社会を生き抜く我々は、子どもも含めてネットを断絶するわけにはいかない。ネットにはまりすぎない自己コントロール力という極めて高度な能力を、子どもたちは求められている。まさに荒波を進む大航海時代に子育てしているといっても過言ではない。親子でネットのルールを共有し、自ら判断できる子どもを育てることこそ、今の時代に求められているのだ。

(ライター・大楽眞衣子)

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