その時に、あんちゃんが、『みつをなあ、お前も来年は5年生だな。5年生というと、最上級学生だな。最上級生になると、下級生を殴る、という話を、おれは聞いたが、お前だけは下級生を殴るような、そういう上級生にならないでくれ』『無抵抗な者をいじめる人間なんていうのは、人間として最低のクズだぞ』ということを、針を運びながらね、懇々というんですよ。
それで、その後に刺しゅうの手を止めて、私の足先を指差してね。『お前の足な、足袋に穴っぽがあいてるけれども、ボロな足袋をはいてることは、一向に恥ずかしいことはないぞ』と。『そのボロな足袋をはいていることによって、心が貧しくなることが恥ずかしいんだ、その足袋の穴から、いつでもお天道さまをみてろ』と。これは、私のあんちゃん、偉かったなと思うんですね。
で『いつでも心は貴族のような心を持っていてくれ』。
3つ目に、『貧しても鈍するな』。この言葉の意味を当時、私はわかりませんでしたが、『どんなに貧しくても、卑しい根性を持つな』ということですね。
そして、もう一人のあんちゃんは、こういうことをいいました。『同じ男として生きる以上は、自分の心のどん底が納得する生き方をしろよ』と。『自分が納得する人生なら、どんなことがあっても愚痴や弱音を吐くなよ』。そういうことをいって、二人とも戦地に行って帰ってきませんでした。
(略)
私にできることは、この二人のあんちゃんの一番喜ぶ生き方は何だろう。これが、私にとっての課題になったんですよ。あんちゃんたちの喜ぶ生き方を私がしなかったら、もう浮かばれないっていう思いがね、小さい時からあったんですね」
稲盛和夫氏が即答した「人生で一番大事なもの」
最後に紹介するのは、京セラ創業者の稲盛和夫氏。「今日まで86年間歩んできて、人生で一番大事なものは何だと感じているか」という本誌の質問に対して、氏は何と答えたか。