野球の試合は9人しか出場できません。例えば、ベンチに座っている選手がふんぞり返るようにして傍観しているチームなのか、それとも前のめりになって声を出しながら、いつ出番が来てもいいように準備しているチームなのか。要するに、他人事にするチームはやっぱり勝ち切らないと思うんですよ。僕はそれをファイターズの監督をしていた時に実感したので、『自分のチーム』『全員がキャプテン』なんだと伝えました。
今回はそれを見事に発揮してくれましたね。準決勝で村上が決勝打を放った場面も、代走で出場した一塁ランナーの周東(佑京)は、村上が打った瞬間にスタートを切り、驚異的な速さでホームに帰ってきたんですよ。
僕としては打った瞬間に打球が外野を抜けるかどうか分からなかったんですが、試合後に周りのスタッフからこう聞きました。『監督、周東はちゃんと準備していました』と。周東曰く、『試合に出場する機会は少ないながらも、全員のバッティング練習をちゃんと見ていました。村上は確かに調子悪かったけど、左中間の打球だけは伸びていたんですよ。だからあの瞬間、抜けると確信しました』と。
その日の試合前、翔平が周東に『きょうは必ずおまえの足で勝利が決まる。だから、準備してくれ、頼むな』と言っていたらしいんですよ。そういうふうに勝負の瞬間への準備を全員がしてくれていた。監督の指示を待つのではなく、信頼関係の中で自らが責任を取ろうとし、勝つために仕事をしてくれていた。それが結果的に勝ち切った要因だと思います」
書家・相田みつを氏の原点
次に紹介するのは、書家の相田みつを氏。1989年の対談取材で語られた、自らの原点ともなる話である。
「私が旧制中学の4年生のときにあんちゃんは兵隊に行くわけですが、あるとき、裸電球を真ん中において、夜なべで刺しゅうしてた。私はちゃぶ台の古いのを置いて勉強していたんですね。