2023年末に『一生学べる仕事力大全』(藤尾秀昭・監修)という書籍を刊行した。人間学を学ぶ定期購読の月刊誌『致知』に掲載された45年に及ぶ記事の中から、後世に残したいと考える74名の話を厳選したものである。800頁に迫る大部となったが、発売直後に重ねて増刷となり、2万部を超える反響を見せている。本稿ではその中から、特に印象に残る3名の言葉を紹介したい。
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侍ジャパンが勝ち切った理由
最初は、侍ジャパンを世界一へ導いた名将・栗山英樹氏の言葉。「今回のチームづくりにおいて大切にしたことは何か」という本誌の質問に対し、次のように答えている。
「強い組織というのは、全員が自分の都合よりもチームの都合を優先し、全員がチームの目標を自分の目標だと捉えていることだと思っています。そういうことを伝えるために、今回は長くミーティングをする時間がなかったものですから、30人の選手全員に手紙を書きました。僕はあまり字がうまくないんですけど、墨筆で。それを代表合宿がスタートする日に、各人の部屋に置かせてもらったんです。真心ってそういうものでしか伝わらないような気がしたものですから。
手紙に書いたことは、あなたは日本代表チームの一員なのではなく、あなたが日本代表チーム。要するに、自分のチームだと思ってほしいと。会社でもサラリーマン意識で勤めているのか、自分がオーナー経営者だと思って働いているのかでは感覚が全く違いますよね。全員に『このチームは俺のチームだ』と思ってやってほしかったんです。
そのため、普通はキャプテンを一人指名するわけですが、今回は全員がキャプテンだと。正直言って僕が相手できるような選手たちじゃなくて、本当にトップクラスが揃っていたので、一人にプレッシャーをかけるよりも、そのほうが勝ちやすいと判断したんです。 そうしたら、初日の練習が終わった後、ダルビッシュが僕の部屋に来て、『監督、全員キャプテンOKです。あれ、いいですね。しっかりやります』みたいなことを言ってくれました。