この話には3つのトリックがある。
第一に、450円というのはあくまでも平均であって、保険料は所得別に計算されるので、所得によってはこれを超える金額になるのは当たり前のことだ。
しかし、岸田政権は、最初の段階では、あえて他の数字に言及せず、450円という平均の数字「だけ」を発表することによって、それを国民の頭の中に強く刷り込んだ。
第二のトリックは、「加入者」と「被保険者」の違いを説明せず、最初の発表では、「加入者」1人当たりの平均だけを発表したことだ。
加入者とは、医療保険制度によってカバーされる人全員を含む。保険料を払っていない扶養家族が含まれるので、数は多く、それを分母に1人当たりの負担額を計算するので、負担額は小さな数字になる。
負担額の話をするなら、本来は、保険料を払っている人、すなわち「被保険者」にとってどれくらい増えるのかということを示すべきだ。被保険者には扶養家族は含まれず、その数は「加入者」に比べて大幅に減るため、被保険者1人当たりの負担額は大きくなるのだが、政府はその額を当初ははっきりとは言わなかった。
野党に繰り返し要求されて、ようやくその数字を年収別で出したのだ。
それによれば、被保険者一人当たりの負担額が28年度時点で、所得が200万円なら月350円と安いのだが、400万円なら650円、600万円なら1000円、800万円なら1350円とかなり高くなる。600万円の家庭では年間1万2000円。馬鹿にならない額だ。
さらに第三のトリックがある。
この負担額には、企業や国などの負担額が含まれていないということだ。保険料については、被保険者の他に、企業や国が同額を負担することになっている。この分は、労働者から見ると直接の負担にはならないから負担感は生じない。
一方、企業は、この負担を経営の中で吸収する必要があるが、最も簡単な方法は、本来行えるはずの賃上げの率を下げる、ボーナスの支給額を減らす、正規社員を減らして保険の対象にならない非正規を増やすなどの対策だ。
つまり、企業の負担は、簡単に労働者の負担に付け替えることができるのだ。
例えば、年収600万円の人は支援金による年間1万2000円の負担増とともに、気付かぬうちにボーナスが本来よりも1万2000円少なくなって、合計2万4000円の負担になるかもしれない。
しかし、そういう議論は、ほとんど聞こえてこない。