閉塞感に覆われ、クソッタレでノーフューチャーな今の社会。そこから「ちょっとだけ」飛び出そうと、著者は地方赴任を申し出た。そこで何をしたのか。田を耕し、自分が食べるぶんの米をつくった。
“記者による田んぼづくり体験”、といっても、田舎ぐらしサイコー、ロハス、エコライフ的体験記ではない。〈ちょっとだけ、はずれる。〉、そこに、こだわる。
 日ごろ愛用するアロハシャツのままで、ポルシェのオープンカーに乗って。あくまでも“自分”というスタイルを守り、「真剣にもがく」。「ロックはアティテュード(姿勢)だ」。昔、誰かに聞いた言葉を思い出した。
 農業経験どころかアウトドアも苦手な渋谷育ち。他人とつるむのも嫌い。だからこそ見えた、資本主義や日本の地方社会が抱える問題点や不自由さ。先の読めない展開にも引き込まれる。
「ギターを買いにいかなきゃ!」といった具合に、「すぐ田んぼづくりしなきゃ!」というわけにはなかなかいかないが、確実に何かの衝動は、かきたてられる。

週刊朝日 2015年11月6日号