二階俊博・元幹事長。衆院本会議場で

絶妙の引き際を演出

 安倍派は最大派閥としてキングメーカーとなったが、裏金問題によって岸田首相にはしごを外された。二階氏は非主流派とされながら最後は岸田首相にしっかり恩を売った。二階氏の引退表明直後の夕刻、岸田首相がわざわざ、記者団に話した言葉に二階氏への配慮が読み取れる。

自民党の再起を強く促す出所進退であると思いました。そのうえで二階氏とお会いさせていただきました。50年にも及ぶ政治経験、印象深いお話を聞かせていただいた」

 岸田首相の思いを代弁しているのか、茂木敏充幹事長の記者会見では、世耕氏ら安倍派幹部に対して厳しい言葉が目立った。

「不正・不適切な会計処理について、派閥幹部の立場にありながら適切な対応を取らず、大きな政治不信を招いた者の政治責任は極めて重い」

 和歌山における自民党の勢力図はこれからどうなるのか。注目はもちろん二階氏の後継候補だ。二階氏は記者会見で「それは和歌山3区の皆さんが決めることだ」と語った。しかし地元では、二階氏の秘書を務める長男か、三男か、などと、身内から後継を出すのが決まったのも同然と受け止めているという。二階氏の支援者はこう話す。

「二階氏は政界引退表明後も『県連で後継は決めればいい』とすっかり余裕で、世耕氏の処分は全く意に介さない感じです。無所属で、かつ裏金事件のイメージダウンが激しい世耕氏ではとても勝ち目がないと誰もが考えますよ。ただ、二階氏も世襲批判が巻き起こるのは間違いない。もし世耕氏にチャンスがあるなら、そこでしょう」

「どっち派」のリストも

 和歌山の自民党県議によると、「この議員は二階氏側、この町長は世耕氏側」というリストまで出回っているという。二階vs.世耕となれば、県内を衆院と参院で棲み分けていた2者による初めての激突になる。

 世耕氏の参院議員の任期は来年夏まで 。今のまま参院議員を続けるにしても、二階氏の牙城に挑むにしても、当面は無所属での活動になる。

「政治家にとって最も実力を試されるのは無所属での選挙。世耕氏が衆院か参院かどちらを選ぶのかはわかりませんが、これを勝ち抜けば、彼にとっても新たな展開が生まれてくるはずです」(田村氏)

(AERA dot.編集部・今西憲之)
 

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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